宅建免許申請について、厄介なのが事務所要件であり、折角準備した事務所が宅建業法上の事務所としては実はNGだったという悲劇が後を絶ちません。
このような事態にならないためにも、何がOKで何がNGなのかを詳しく見てみることにしましょう。
ここでは、「宅建業免許申請上の事務所」について、事務所形態の大まかな解説とケーススタディに分けて解説していきます。
事務所形態別の審査ポイントについて
まずは原則論から見ていくことにしましょう。
東京都「宅地建物取引業免許申請の手引」より
一般の戸建て住宅、又は、マンション等の集合住宅の一室(一部)を事務所として使用すること、一つの事務所を他の法人等と使用すること、仮設の建築物を事務所とすること等は原則として認めておりません。
「社会通念上も事務所として認識される程度の独立した形態」と言われても何がOKで何がNGか判然としません。
原則論を意訳すると次のような要件に整理できます。
要件1:他の法人と専有部を共用していないこと。
要件2:他社の専用部を通過することがないこと。
要件3:他の用途(例:住居、飲食店舗)と共用していないこと。
この原則論からすれば、一般的にオフィス形態によって次のような注意点に分類することができます。
一般事務所 殆ど〇
自己所有、賃貸借であろうが、構造・用途とも事務所であるものは殆ど問題がないので、ここでは深入りしません。ここで、あえて「一般事務所」としたのは、次に述べるレンタルオフィス、シェアオフィス、バーチャルオフィス、マンションタイプオフィスとの違いを明確にするためです。
NGとなるのは、上記の要件の通り、他の法人と専有部を共用している場合や他の法人の専用部を通過する場合、他の用途と混在しているケースなど特殊な場合だけであり、申請法人が単独で独立した専用部を継続的に使用できるのであれば問題がありません。
レンタルオフィス 殆ど〇
レンタルオフィスとは、会議スペースなどの接客スペースを共用することにより、専用室を事務スペースに特化させたスモールオフィスを言います。事務スペースとなる専用室は狭いものの、普段使用しない会議室を共用することによりオフィスとしての効率性を向上させる仕掛けであり、昨今ではスタートアップ企業に人気を博している形態です。
宅建業免許審査上、レンタルオフィスでの開業も次の要件を満たせば十分OKとなります。
要件1:独占使用の証明書をレンタルオフィス事業者から発行されること
独占使用証明書の雛形
東京都の場合、上記の雛形のような独占使用の証明書をレンタルオフィス事業者が東京都知事宛てに発行する書面が「免許申請時点」において必要となります。
要件2:法人名義の賃貸借契約を申請時に提出すること
不思議なことですが、他の事務所形態では、免許申請時点において事務所の賃貸借契約を提示することは不要なのですが、レンタルオフィスの場合は、「免許申請時点」においてレンタルオフィス事業者と申請会社との事務所賃貸借契約の提示が求められます。
一時使用等になっていないかなど賃貸借契約の内容を確認する趣旨と考えられます。
要件3:事務所内に事務スペース以外に応接スペースを確保できること
レンタルオフィスは、会議室や応接スペースを共用するという意義で賃借することが殆どでしょうが、宅建業の免許審査上、共用の応接スペースは宅建業免許上の応接とはならないことに注意が必要です。
つまり、レンタルオフィスの専用室内に応接スペースを配置する必要があるのです。
宅建業に従事する者の事務スペースと応接スペースを勘案した結果、これらのスペースについて物理的配置が不能となる極端に狭いレンタルオフィスでの宅建業開業は困難であると言えましょう。
また、間仕切りがないレンタルオフィス(実はこの形態は以下のシェアオフィスと言います)はNGであり、最低限180㎝以上のパーテーション等で明確に他法人と仕切られていることが必要となります。
シェアオフィス 殆ど✕
シェアオフィスとレンタルオフィスの端的な違いとしては、事務室という専用空間が存在するか否かです。シェアオフィスは執務空間・応接空間を他社と共用する事務所形態であり、宅建免許申請上の事務所としては認められないことに注意が必要です。
バーチャルオフィス 完全に✕
事務所空間を認識できないバーチャルオフィスは、宅建業の本店や支店となり得ません。100%不可能です。よくバーチャルオフィスで免許可能という謳い文句のバーチャルオフィス事業者も見受けられますが、完全な違法行為です。
一棟賃貸マンション(専有部非居住) 殆ど〇
管理組合のない一棟オーナーマンションであれば、外観がマンションであっても賃貸借の使用目的が「事務所」であれば、宅建業の免許取得は可能です。
一棟賃貸マンション(住居兼用) 場合によって〇
居住部分を全く通過せずに宅建業免許申請上の「事務所」スペースに至ることができる場合はOKとなる場合が多いです。
事務所部分の配置、間取りによって〇✕が分かれてくるので、詳細な事前確認が必要です。
この場合においても、当然ながら、賃貸借の使用目的が「事務所」であることが必要となります。
分譲マンション(専有部非居住又は居住) 殆ど✕
区分所有の分譲マンションは所有であれ、賃貸であれ、管理組合による管理規約にて「事務所使用」が認められていないケースが殆どです。この場合、管理規約により管理組合又は理事会による「事務所使用」の承認が必要となります。
宅建免許申請時点では、分譲マンションの管理組合からの承認は提出事項でないものの、後に免許審査により「事務所使用に関する管理組合の承認は受けれいるか?」と照会が入った場合において、免許が下りないというリスクを抱え込むために、弊所では事前に管理規約を確認するようにお客様にお勧めしております。
戸建(専用部非居住) 殆ど〇
所有であれ、賃貸であれ、居住部分がない一戸建てを純然たる事務所として使用する場合は、問題ありません。賃貸の場合においては、賃貸借契約において使用目的が「事務所使用」である必要があるのは言うまでもありません。所有の場合は、問題となりません。
戸建(住居兼用) 場合によって〇
一棟マンション(住居兼用)と考え方は同じです。明確に居住部分と事務所部分によって導線を分けることができるかがポイントです。
事務所部分の配置、間取りによって〇✕が分かれてくるので、詳細な事前確認が必要です。
この場合においても、当然ながら、賃貸借の使用目的が「事務所」であることが必要となります。
ケーススタディ
ここではよくあるケースとして、NGとなるケース、リカバリーによりOKとなるケースを事例研究してみましょう。
ケース1:親会社の専用室内で子会社がスペースを間借りするケース
今回、親会社が子会社に宅建免許を取得させようとして、親会社の事務所スペースの一部を子会社に賃貸(又は転貸)させるケースを考えてみましょう。
NGの場合
左の図では、親会社の専有部分を通過してこの度の宅建業免許申請会社である子会社の専用部に至る間取りとなっています。この場合は、子会社部分が「独立した専用部」を有すると判断できないため免許申請がNGとなります。
OKの場合
一方で右の図では、申請会社たる子会社は親会社の専用部分を通過することなく、共用廊下から独立して専有部に到達することができるため、「独立した専用部」と判断されることになります。
このように、親会社と言えども他法人であるため、間借り方式については、事前の間取りの検討が必要となります。
なお、転貸の場合は、元のオーナー(賃貸人)からの転貸承諾が必要となることに注意すべきです。
ケース2:賃貸マンションの一部を事務所として申請するケース
賃貸マンションを自宅として賃借している人が、本店を当該賃貸マンションにて登記を行い、賃貸人から事務所使用の許諾を得たケースを考えてみましょう。
色の付いた箇所が事務所として申請する部分であり、その他は白い部分は居住部分又は室内共用部となります。
NGの場合
左の図では、北側の玄関から専用室に入った後において、洗面所や居住部分との仕切りがなく、事務所が居住部分と一体化していると見做され「独立した専用部」を有すると判断できないため免許申請がNGとなります。
OKの場合
一方で右の図では、洗面所部分に①仕切りを設置し、居住部分に②ドアを設置することにより、共用部分から独立して専有部に到達することができるため、「独立した専用部」と判断されることになります。
このケースの場合は施工の程度によって審査担当官の判断が異なってくるため事前確認をしたほうがいいでしょう。
いかがでしたでしょうか?