昨今は東京都内など良質のレンタルオフィスやシェアオフィスなどが多く供給され、スタートアップ企業にとって開業の初期コストを抑えつつ、共用部をシェアするという使い勝手のよい起業がより身近なものになってきました。
今回は、これらの新しいオフィス形態のうち「レンタルオフィス」での宅建業開業について解説してみましょう。
結論から申し上げますと、レンタルオフィスの開業は十分可能です。
ただし、いくつかの条件がありますので、今回はシェアオフィスと対比しながら詳細を見ていくことにしましょう。
レンタルオフィスとは?
「レンタルオフィス」の正確な定義はありませんが、次のような要件に該当するものがレンタルオフィスと言えるでしょう。
【契約の特徴】
・レンタルオフィス事業者がフロア(又は一棟)を一括して借り上げる賃貸借形態
・レンタルオフィス事業者は借り上げたフロアを細かく区画割してエンドテナントに転貸を行う。
・賃貸借契約の場合もあれば、利用契約の場合もあり得る
【物的な特徴】
・専用部は共用部と明確に分かれている。
・トイレ、会議室、コピー機などの施設を他のテナントとシェアする。
専用部をシェアしていないのがポイント
典型的なレンタルオフィスを図で表すと次の通りとなります。
典型的なレンタルオフィス
上記の図では、専用部と共用部が明確に分かれていることから、このような図面におけるレンタルオフィスであれば宅建業の免許取得が可能です。
※レンタルオフィス特有の細かい要件については後述します。
シェアオフィスとは?
レンタルオフィスとよく似た事務所形態として「シェアオフィス」がありますが、シェアオフィスは、執務室と共用部が混然一体となっている形態であり、宅建業免許は下りないと考えてください。
【契約の特徴】
・シェアオフィス事業者がフロア(又は一棟)を一括して借り上げる賃貸借形態
・シェアオフィス事業者は借り上げたフロアを区画割することなくエンドテナントに転貸を行う。
・賃貸借契約の場合もあれば、利用契約の場合もあり得る
【物的な特徴】
・専用部は共用部と明確に分かれていない
・専用部も含めトイレ、会議室、コピー機などの施設を他のテナントとシェアする。
専用部までシェアしているのがポイント
典型的なシェアオフィスを図で表すと次の通りとなります。
典型的なシェアオフィス
上図では、事業者D、E、Fは同じ空間を事務所として正にシェアしていることから、宅建業の免許取得は不能です。
以上の通り、レンタルオフィスでは宅建免許の取得が可能であり、シェアオフィスでは宅建免許の取得が不可能であるという原則論が分かってきました。
それでは、レンタルオフィスとシェアオフィスが混在しているケースはどうでしょうか?
次の図を見ながら検証してみましょう。
免許取得が可能なケース
次の図で、専用部二、専用部ホの部分はレンタルオフィス部分であり、各事業者が専用部を有しています。
一方で、事業者イ、ロ、ハはシェアオフィス部分を借りています。
レンタルオフィス事業者である二、ホは、共用部から直接専用部に到達可能であり、宅建免許の取得が可能となります。
当然ながら、シェア部分を借りている事業者イ、ロ、ハは宅建免許の取得が不可能ですね。
免許取得が不可能なケース
次の図でも同様に専用部二、専用部ホの部分はレンタルオフィス部分であり、各事業者が専用部を有しています。事業者イ、ロ、ハはシェアオフィス部分を借りているのも同じです。
しかしながら、このケースの場合、レンタルオフィス事業者である二、ホは、共用部から直接専用部に到達しておらず、シェアオフィス部分を通過して専用部に至ることから、宅建免許の取得が不可能となります。
シェア部分を借りている事業者イ、ロ、ハは宅建免許の取得が不可能なのは同様です。
以上の通り、混在型では、シェア部分、つまり他社の事務所使用部分を通過して専用部に至るような②のケースでは免許が下りないことに注意が必要です。
昨今は、このようなハイブリッド型のシェア・レンタル混在型のオフィスが増えています。
事業者側の担当者もこの辺りの知識があまりなく「前例で宅建業の免許取れたから大丈夫ですよ!」と安易に考えている担当者が意外に多いので注意してください。
レンタルオフィス独特の注意点
以上、レンタルオフィスの形状や配置から考えた注意点を説明しました。
次に、レンタルオフィス独特の注意点や必要資料を解説していきます。
専用部に応接が必要
通常のレンタルオフィスには、他のテナントと会議室を共用し、通常この会議室は予約制となっていることが多いです。
レンタルオフィスの会議室は専用部よりも内装が施工されているケースが多く、正にスタートアップ企業が接客するには非常に重宝する存在と言えます。
しかしながら、宅建業の免許審査上は、この会議室は単なる共用部として見られ、専用部に接客スペースを設置することが要求されます。
レンタルオフィスでの宅建業開業は、専用部内に接客スペース、つまり応接セットを配置できるかが勝負となります。
通常、レンタルオフィスの専用部はお客様を入室させることは想定していない設計となっていますが、宅建業免許審査上は、この狭い専用部に応接セットを設けて図面と写真をもって説明することが必要とされます。
更に、宅建業に従事する者の人数によっては、必要とされる執務デスクとこの応接スペースがどうしても配置できないという問題が発生するケースが多々あることから、一定程度余裕を持った専用部面積を確保することが必要です。
独占使用の証明書
そもそもレンタルオフィスについては、宅建業の免許審査上「例外的に」事務所として認めてあげるというスタンスで行政庁は審査します。
そもそも専用部を独占的に利用できなければ、宅建業の事務所として認めないということを明確にするため、レンタルオフィス事業者(代表者印必要)が発行する「独占使用の証明書」を発行してもらう必要があります。
趣旨としては、「356日、24時間、独占的に専用部分を利用できること」を証明するものです。
雛形を示しておきますので、ご利用ください。
独占使用の証明書雛形
賃貸借契約の添付
東京都の宅建免許審査上、レンタルオフィスの場合は上記の独占使用の証明書と併せてレンタルオフィス事業者との賃貸借契約書が免許申請の添付資料として要求されます。
よくあるのが、法人設立間もない企業では、法人設立前に代表者の個人名義で契約しているため、免許申請前に賃貸借契約を法人名義に切り替えておく必要があります。
この事務手続きが遅れて、免許申請がなかなかできないという例があるので注意が必要です。
転貸承諾が必要
レンタルオフィス事業は、自社ビルで運営することは稀であり、一棟又はフロアをレンタルオフィス事業者がオーナーから一括して賃借し、これをエンドテナントに転貸するケースが殆どです。
転貸借に関しては、レンタルオフィス特有の問題でないのですが、転貸方式のレンタルオフィスでは、念のためにオーナーからレンタルオフィス事業者が転貸承諾を得ているかを確認しておきましょう。
(民法上、無断転貸は賃貸人からの解約事由となります)
余談
レンタルオフィス事業者の中には、賃貸借契約の法人名義切り替えや独占使用に関する証明書の発行に非常に時間のかかる事業者があります。
弊所で取り扱った事案で、全ての書類が整っているのにレンタルオフィス事業者からの「独占使用に関する証明書」の発行に2ケ月かかり免許申請が遅れたというケースがあります。
当然、この間、賃料は請求し続けていました。ひどい話ですが、大手のレンタルオフィス事業者の中でも、このようにいい加減な対応をする事業者があることに注意が必要です。