今回は、宅地建物取引士に関連する3つの講習について解説します。
宅建業の開業には、専任の宅地建物取引士(以下、宅建士)を事務所ごとに最低1人以上設置することが必要であり、この宅建士に関連する講習には、「登録講習」「実務講習」「法定講習」と3つあります。
正式な宅建士となるためには、宅建士試験に合格した後、宅建士としての資格登録を受け、更に宅建士証の交付を受けなければなりません。
つまり、ステップ1:試験合格⇒ステップ2:資格登録⇒ステップ3:宅建士証の交付の3段階をクリアして始めて正式な宅建士となります。
宅建士証取得までの大まかな流れは次の通りです。
いろんな「講習」があり、しかも名前が似ているので非常にややこしいですね。
それぞれの講習を受けることができる人、受けなければならない人の要件が異なりますので、一つ一つ見ていきましょう。
登録講習
名前は「登録講習」となっていますが、実質的には宅建士試験の試験科目を5点免除する講習です。
すなわち、この「登録講習」は宅建士試験の受験前に受講する講習であり、後で解説する「登録実務講習」「法定講習」は、宅建士試験の合格後に受講するものとの時間的な違いがあります。
この登録講習を受講して最終のスクリーニング試験を無事終了すると宅建士試験のうち5問が免除されるという特典が付きます。
対象者
宅地建物取引業(以下、宅建業)に従事中で、かつ、従業者証明書が発行されている人です。
詳しく言えば、「現在」宅建業に従事している人で従業者証明書を会社から発行されている人に限るということです。
例えば、過去に宅建業に従事したことがある人、これから宅建業に就職を予定している人は対象とならないので注意が必要です。
宅建業に従事している人にとって有利なので、宅建業に従事していない人にとっては関係ない話になりますので、「下駄履き講習」「ドーピング講習」とも言われたりしていますね笑
宅建士試験は全50問ですから、このうち5問となると約10%が免除になるので結構大きいですね。実際に令和元年度の合格率は、一般受験者が17.0%であったのに対して、登録講習受講者は22.9%と5%以上の合格率の高さとなっています。
この登録講習受講後のスクリーニング修了資格は受講後3年以内有効なので、宅建業に従事していて宅建士試験に絶対合格しなければならない人は早めに受講することをおススメいたします。
登録講習の実施機関は、次のような民間の資格学校などにて申込、受講することになります。
国土交通省HP 登録講習の登録講習機関一覧
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000074.html
以上が宅建士試験合格前の登録講習の内容でした。次に、宅建士試験合格後に受講することになる登録実務講習と法定講習について見ていきましょう。
受講しなければならない人、不要な人に注意しながら解説していきます。
登録実務講習
「登録実務講習」「実務講習」と呼ばれる都道府県知事の登録を受けるための講習です。
まず、宅建士の登録を受けることができる人の要件を見てみましょう。
(ア)宅地建物取引業の実務(一般管理部門は除く。)の経験が過去10年以内に2年以上ある者
(イ)登録実務講習を修了してから10年以内の者
(ウ)国、地方公共団体又はこれらの出資により設立された法人において宅地又は建物の取得又は処分の業務に従事した期間が通算して過去10年以内に2年以上である者
なお、いずれの場合も欠格事由に該当する場合は、登録を受けることができませんがここでは省略します。
上記のウ)は特殊な例であるため、ァ)の要件を見てみましょう。このア)の要件を満たさない人は、イ)の登録実務講習の受講をしなければ宅建士の登録を受けることができません。
「実務経験があること」とは?
単に、宅建業者に勤務していたというだけでは、実務経験があるとは言えません。
【一般管理部門は除かれる】
単に宅建業の免許業者で働いているだけでは、実務経験と言えません。例えば、宅建業者に勤務していても経理や総務などの間接部門にて働いている人は宅建業の実務経験があるとは言えません。
【実務経験の証明書が発行されること】
勤務先の宅建業者の従業者名簿に社員として記載されていた期間が2年以上あることが必要となります。宅建士の登録に当たっての必要書類に「実務経験証明書」を勤務先から発行してもらう必要があります。
ここで注意すべきは、過去10年間で宅建業に従事した期間が2年以上あっても、その会社を既に退職してしまった場合においても、その退職した会社から実務経験証明書を発行してもらわなければならないので注意が必要です。心情的に言いにくいですよね。
この実務経験がない人が受講するのが「実務講習」です。
どんな講習か?
宅建士試験合格後に、上記の実務経験がない人で、いち早く宅建士証を取得したい人は、まず登録実務講習の実施機関にて講習の申込を行いましょう。
申込後、大体1か月間は通信講座にて勉強をして、約1か月後に2日間の講義形式でのスクリーニング(演習)と修了試験が課されます。この修了試験に合格すると約1週間後に終了証が送付されてきます。
この修了証が、宅建士登録に当たっての実務経験に代わる証明書となります。
修了試験を舐めてかかって落ちてしまった人も中にはいるので、真面目に受講してください。
登録実務講習
国土交通省HP 登録実務講習実施機関一覧
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000068.html
法定講習
法定講習は、「宅地建物取引士証(以下、取引士証)」に関する講習です。
この法定講習を受講すべき場合は次の通りです。
【新規】宅地建物取引士試験の合格後1年以上経過したものが新規に取引士証の交付を受ける場合
【更新】取引士証の有効期限は5年であり、5年ごとに更新をする場合
【失効】従前、取引士証の交付を受けていた者が取引士証の有効期限が切れてしまい、改めて取引証の交付を受けることを希望する場合
なお、宅建試験合格後1年以内のものが新規に宅建士証の交付を申請する場合においては、法定講習は不要です。
と言う意味では、試験に合格後は速やかに取引士証の交付を受けておいた方が初回の法定講習は不要になるということです。
この法定講習の受験は、宅建士の登録を受けた都道府県が指定する実施団体で受講する必要があります。
例えば、大阪で宅建士試験に合格した人は、大阪府で宅建士の登録を受けることになります。その後、宅建士証が新規に必要な場合や更新が必要な場合は、大阪府で開催される法定講習に参加する必要があります。若い時に実家の近くで宅建士試験に合格した人が、その後転勤にて東京で勤務している場合、大阪まで行って法定講習を受講する必要があります。
ただし、登録の移転の手続きを行った場合は、移転後の都道府県にて以降受講していくことになります。
法定講習の実施機関は、各都道府県の宅建業指導窓口のHPなどで確認してください。
例として東京都の法定講習のページを掲げておきます。
東京都住宅政策本部 宅地建物取引士 法定講習について
https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/sinsei/kousyu_nittei.htm
以上が各講習の概要でした。
このように見てみると、その人の状況によって宅建士証の交付までの時間の違いが生まれてきます。宅建士試験の合格後は速やかに宅建士の登録及び取引士証の交付を受けておいた方が、いざというときの機動力が全然違うということに注意が必要です。