専任の取引士の要件には、「常勤性」と「専従性」が必要とされ、宅建免許申請上において厳格な運用がなされています。

今回は、「専従性」要件の中で、新規申請時に多くの方が誤解している「前職の勤務先」について細かく掘り下げて解説していきます。

今回の解説ポイント
過去に宅建業者に勤務した経験がある宅地建物取引士が、転職先・出向先にて新たに「専任の取引士」として就任する場合においては、宅建士としての変更登録を事前に済ませておく必要があります。

取引士の登録制度が複雑なのは、「宅建業を営む会社が行う専任の取引士の届出」と「宅建士個人としての登録」の2種類があり、それぞれが別個であることです。

よく勘違いされているのが、前職を退職したときに前職の会社が行う「宅地建物取引業者名簿記載事項変更届出」が済んでいるから、手続きが完了しているという誤解です。

前職を退職した場合においては、上記の手続き以外に「宅建士個人としての変更登録手続き」が必要となります。

これらは別々に行う必要があり、勘違いされている方が殆どです。

前職で宅建業の会社に勤務経験がある場合

宅建業者に勤務している宅地建物取引士は、当該勤務先を取引士証が発行されている都道府県にて「勤務先の登録」を行っています。

更にややこしいのが、宅建業者(会社)に関しては「専任の取引士」の変更は届出事項であり、「その他の取引士」は届出事項でないものの、宅地建物取引士(個人)は専任であろうがその他の宅建士であろうが、勤務先を登録しておく必要があることです。

この手続きは、委任状などの代理人以外では、本人でしか行えません。
「前職の会社が手続きやってくれている」と勘違いされている方が多く見られるポイントです。

この宅建士の登録変更手続きを行っていない状態で、新規に宅建業免許申請を行う会社にて「専任の取引士」に就任はできないことに注意が必要です。

事前に勤務先を退職した旨について、以下の手続きが必要となります。

どこに対して

宅建士としての登録を行った都道府県、つまり取引士証が発行されている都道府県の窓口になります。
都道府県によって窓口がまちまちであり、宅建協会などに委託しているケースも多く、申請窓口については事前確認が必要です。

いつ

制度上は「遅滞なく」ということになっていますが、前職の登録を放置している方も多いです。
ここでは、新規の宅建免許申請会社にて専任の取引士として新規に就任することを念頭に置いているので、少なくとも、宅建業の免許申請までには、登録変更手続きを済ませておく必要があります。

持参物

申請書に変更事項を記載の上、前職の退職証明書(※)を持参して申請します。
取引士証、印鑑も持参してください。
書類が整っている場合、即日受付してもらえます。

※前職の退職から相当の期間が経過して、既に退職証明書が取得できない人は、年金事務所等で「被保険者記録照会回答票」を入手して添付することも可能です。(東京都の場合)

変更登録申請書の書き方の注意点

変更登録の記載方法の注意点としては、次の通りです。

・宅建業免許申請前には、未だ宅建業免許番号が無い会社となるので、変更後を空欄とする。
・変更前については、前職の宅建業者を退職した日を変更年月日として、前職のデータを記載する

変更登録申請書の記載例

関連会社からの出向の場合

不動産業を展開するグループ会社にて、出向元が親会社である宅建業者であり、新たに子会社で宅建業免許を申請するケースを考えてみましょう。

この場合も、宅建業免許は親会社と子会社が別法人となるため、上記の退職に準じた手続きが必要となってきます。

必要資料としては、退職証明書でなく、親会社から発行された出向証明書が必要となります。

この出向証明書は、子会社法人である宅建業免許申請時にも必要のため、2部事前に準備しておきましょう。

なお、宅建業免許申請上においては、在籍出向、転籍出向の違いが問われることはありません。